【連載139】住宅供給をストックビジネスに
- 2021/03/01
住宅ローンの縛りを緩和させる取り組みも、私たち住宅産業がやらねばならないことだと私は考えます。そのことは、ローンを組んでいる住宅購入者だけでなく、私たち住宅産業側にもメリットをもたらすからです。
住宅メーカーの多くは、お客様に対して目一杯のローンを組ませます。決算で数字を上げるためにはそうせざるを得ないのかもしれませんが、そこには、これまで私が述べてきたようなお客様のライフステージの変化というものは考えに入っていません。偽善的というか、お客様にとって不必要な設備などをあたかもお客様にとって良いもののようにどんどん提案して、2,000万円の住宅を3,000万円にしてローンを引き上げるようにしていきます。そういうことをする社員を各社とも「優秀な営業マン」として評価しますから、不要な借り入れ、無理なローンを組むお客様が増えます。
お金をかければ、かけないよりは良い住宅になり、良い設備となることもあるでしょう。しかしそれを、例えば子育てという最初のライフステージでやってしまうと、そのステージでの目的は達せられても、次のステージの目的は達せられなくなります。ローンの縛りが大きくなっているのですから。つまり、そういうお客様は住宅産業にとってのリピーターにならないのです。
学校に行っていた子供はもう独立して家を出ているのに、学校のそばの、通勤や買い物に不便な場所に住み続ける。夫婦2人になり、階段の昇り降りもつらくなっているのに、2階建ての部屋数の多い家に住み続ける……そういう人は実に多いのです。住み替えたいけれども、それが経済的な理由によってできないのです。
今後ますます人口が減り、住宅着工のニーズは落ちてきます。そういう時代に向けて、住宅産業はリピーターの発掘をやらねばなりません。子育てで学校の近くに家を建てた人が、次に壮年期の目的達成のために駅の近くに行き、そして熟年期には病院のそばに行く。そのたびに住宅という大きな買い物が容易にできるようになれば、たとえ市場が現状の3分の1になっても、現状以上の状態とすることができます。
あるお客様が住み替えをするたびにそのお手伝いをする。そんなリピーターを作ることが可能となれば、私たちの住宅供給の仕事は、ストックビジネスにしていくことができるのです。高品質であるのはもちろんですが、低価格の住宅を提供することで、お客様はライフステージにあった住まいを選択でき、そのことにより住宅産業も潤うことができるのです。