【連載46】住宅所有の考え方を変える
前回、「賃貸住宅は余っているが不足している」と書きました。「人口が減っているのだから住宅も余るだろう」ということは当然ですが、同時に「賃貸住宅のニーズはますます高まるのに、ニーズに応えた賃貸住宅は足りない」ということを、私たちはしっかりと認識する必要があります。
賃貸住宅の需要が高まることは間違いありません。なぜなら、成熟社会を迎えた日本は、この先しばらくは、経済のよほどの大きな変革がない限り、人々の生涯年収は固定化されるか、むしろ減少し、格差は広がり続けます。それは、家を持つことが困難な人、持とうと思わない人が増え続けることを意味します。
生涯所得が今はロックされていれば、勤めた瞬間に定年までの生涯所得がわかります。同じ所得なら、都心部に行けば行くほど生活が苦しくなります。総務省は、最近の都市部の生活者のエンゲル係数は平均値25%にも及ぶと発表しています。食うための比率が所得の4分の1。かつてバブルの頃のそれは、21%でした。エンゲル係数は20%を切れば可処分所得が大きくなり「余裕のある暮らし」となります。25%では、とても余裕は出ません。
あるサラリーマンの生涯年収が2億円だとします。その人が東京で5,000万円の家を買ったとします。食費も同様に収入の4分の1、つまり5,000万円かかるわけですから、半分は食と住に取られてしまいます。それがわかっていれば苦労してマイホームを買おうとは思わないと判断する人は多いはずです。買わずに借りる、賃貸住宅のニーズが高まるのです。人生の豊かさをどこで感じるか。何をもって豊かだと考えるか。マイホームを持つというプライドは捨てればはるかに豊かな人生を送れるという選択は、当然あり得るわけです。
それでもまだまだ多くの人は「持ち家」へのこだわりがあります。また、歳をとって収入がなくなった時に、家賃を払うのが心配だという人もいます。だったら、長く借りていたらその家が自分のものになるようなしくみだって、あっていいのではないかと私は思います。
払った家賃が購入代金の一部になっていくようになれば、賃貸住まいはこれまでとはまったく違った発想になります。8万数千円の家賃を30年間払えば3,000万円以上になります。賃貸ですから固定資産税も修繕費もかかりません。それでその家が自分のものになったら幸せです。でも、3,000万円の家を30年間のローンで買うと、生涯で4,000数百万円を払うことになります。賃貸の方がずっと良く、しかもそれで家がもらえればなお良い。
こうした考えを夢に終わらせず、できることから挑戦していく。それが、日本の賃貸住宅を変えること、日本人の住まいに対する考え方を根本から変えることにつながるのだと私は思います。