【連載37】関係者の自己実現
日本の資本主義は、成長期から成熟期に入りました。
資本主義でのビジネスは「需要の変化」が「供給の変化」となります。そして経済の成長期には、社会の変化が企業の変化をもたらし、企業の変化が個人の変化に影響を及ぼすというサイクルでした。
しかし、先進国において一定の物価水準や可処分所得が上昇すると、個人の変化が企業を変化させ、さらにそれが社会を変えるというサイクルに変質していきます。個人消費が、経済に大きく影響を与えるわけです(我が国では個人消費が直近で284兆円の57%です)。
資本主義の成長期は需要過多時代であり、それに対応したビジネスが行われました。「量」の時代は、供給サイドの質が多少低くても商売が成り立ちました。売り手市場ですし、買い手も感性や価値の追求などは要求していなかったのです。
ところが成熟期になると供給過多となり、買い手それぞれの感性や価値観の違いによる市場ニーズの多様化が見られるようになります。需給の中に高い感性や価値観の追求などの「質」が求められるようになるわけです。
買い手が求める「質」を実現するためには、自己確立が必須となります。市場が求める感性や価値観は様々で、しかもその水準はより高みを求めます。それに応えるには、自らがどういう感性、価値観を持って自らの商品を市場に供給(製造・サービス)するのかをしっかりと認識し、説明できるようにしなければなりません。自身はどのような「質」を供給していきたいのかを明確化し、そのためにビジネスを行うという「自己実現」の観点が必要なのです。
競争社会の中で、この自己実現を成立させることは極めて難解な問題です。しかしながら、ますます多様化し、そして変化する市場に対応していくためには、自分自身の拠り所をしっかりと持つことが不可欠です。そしてその上で、自らの利益だけに固執しない「利他的な行為」のあり様をよく理解し、市場を形成する関係者やビジネスを成立させている周囲のすべてとの「良好な関係性」を築くことが大切です。お客様だけでなく、ビジネスに関わるすべての人の自己実現を尊重しなければなりません。
いま一度整理すると、成熟社会においてはより質の高いサービスが求められます。そしてその質は、単一の価値観で決められるものではなく、多様でかつ変化するものです。そのような中にあっては、自分自身が確固たる価値観を持ち、しかも他者の利益を常に考えて行動を組み立てる。そうすることで、時代が求める質の高いサービスを、常に提供できるようになるのです。