【連載35】「共存利益」をめざす覚悟が必要
老舗企業が継続的に発展するか、衰退に向かうかを決める外的要因として、消費者の多様化に対応できているかどうかがあげられます。多様化とは、ただ単に商品構成が多種になるということだけでなく、消費者の多様なニーズそれぞれについて、消費者の利益はもちろん、生産者の利益も同時に実現できるかどうかが肝要です。しかし、現代社会ではこれがなかなか難しいわけです。
商品やサービスを売る側は、少しでも高く売りたいと考えます。一方で、買う側は少しでも安く買いたいと思うものです。このように、供給側の希望価値と、需要側の効用(満足度)が相反することで生ずる経済行為を「相反利益」と言います。現代のような競争社会においては、大半の経済行為が、供給側と需要側の相反利益となっています。成熟社会で、すべての産業が供給過多の中にあるとすれば、それは解決不可能な問題とも言えます。
成熟社会においては、モノやサービスが単に大量に供給されているだけでなく、需要側からすると特殊なものを除き、代替がきくという特徴があります。ですから一般商品の多く、特に日常生活用品などは価格が上昇すれば需要量が減少します。他の安いもので代替してしまうからです。
モノやサービスには「上級財・正常財」「下級財・劣等財」という分け方があります。上級財・正常財は所得が増大すればその効果で需要が増大しますが、下級財・劣等財は反対に需要が減少します。そして下級財・劣等財は、実質所得が減少した時に、消費量つまり需要が増大するのです。「人々の所得が増えたから、モノの消費量も増える」といった単純なものではないのです。
供給側=生産者と需要側=消費者は、それぞれのさまざまな要因によって変化します。その変化が相反利益であれば、お互いの幸せは訪れません。生産者と消費者とがともに幸せになるには、互いに「共存利益」をめざす「思想と行動」が必要になります。共存利益とは、「互いに最大効用に達する商取引」と言い換えられます。生産者は自分が消費者の立場になったとき、それを満足して購入できるかどうかということが肝心です。もちろん、消費者にも、生産者の立場に立って考える必要があります。そこには「共存する社会をめざす」という前提が必要で、これは大変なことです。しかしながら、そこからしか共存利益をめざすことはできませんし、共存利益がなければ継続的発展はないのです。
「思想と行動」とあえて述べたのは、継続的発展を遂げる経営をしていくには、それだけの覚悟が必要だということです。衰退に向かう企業には、その覚悟が、経営者にも従業員にも足りないのだと思います。