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地方創生は良質な賃貸住宅の提供から①

【連載16】格差が拡大しても人は良質な住宅に住む権利がある

 昨年、2015年末にマスコミを賑わせた問題としては、消費税増税に伴う軽減税率の導入です。社会保障の原資を得ることを目的に消費税は増税されるはずですが、増税は低所得者の生活を圧迫することになります。弱者救済の観点から、食料品などの軽減税率の導入を求める声があったわけです。軽減税率導入については、選挙対策という批判もあり、また徴税の煩雑化も心配されています。消費税増税が景気に与える影響をもう一度議論すべきだという声もあるようで、消費税論議はまだしばらく続きそうです。
このブログでも取り上げましたが、日本は確実に格差社会にむけて突き進んでいます。高度経済成長下で「一億総中流意識」が醸成されてきた日本社会も、バブル経済が崩壊した1990年代以降、長い停滞の中で「持つ者と持たざる者の差」、格差が拡大してきたのです。
一方で住宅を取り巻く状況を見てみると、高度経済成長期の初期、住宅不足に悩む庶民は風呂なしの貸間、借家で我慢していました。行政はそれを救済するために公団住宅、市営住宅といった集合住宅を建設しましたが、それらは4階建てエレベーターなしや駐車場なしは当たり前の「量」の供給でした。やがて「質」の追求への転換が叫ばれ、民間のマンションや分譲住宅においても品質を重視する考え方が広まってきました。しかし住宅の供給は増えても、やはり庶民にとってマイホームは、一生に一度の大きな買物であることは変わりありませんでした。
バブル経済崩壊まで、年々高騰する土地や住宅に対して、庶民の多くは住宅ローンなどによりなんとかそれを手に入れようとしてきました。それは、給料は今年よりも来年はアップし、収入は増えていくという前提があったからです。
しかしながら、失われた20年を経た今日、今日より明日が確実に良くなると言い切れる庶民は、はたしてどれだけいるでしょうか。政府による様々な景気対策が行われても、収入の減少傾向は続いています。格差は拡大し、マイホームの夢が遠のいた、持ち家の夢は諦めたという人々は少なくありません。
こうした現実を前に、私たち住宅産業に関わる者たちはどうすればよいのでしょうか。限られた「持つ者」だけを相手に、パイの奪い合いをすればよいのでしょうか。
たとえ格差が拡大しても、人は良質な住宅に住む権利があると私は思います。良質な住宅を、経済的負担を極力少なくして提供するためにはどうすべきか、それを追求することも、私たち住宅産業に関わる者の責務ではないかと私は思います。