施工店 販売店インタビュー 025
人脈を活かしたビジネスでは
信頼を獲得し高めることが
何よりも大切
有限会社いしけん工房
取締役
池上 剛 氏
熊本地震から3年。復旧復興に市民が総力を挙げる一方で、豪雨災害も発生し、多難な状況の熊本市周辺。ここを商圏として、「地元密着、施工の質、低価格にこだわる」ことをモットーに営業するいしけん工房・池上剛社長にお話を伺いました。
有限会社いしけん工房
2000年(平成12年)に二級建築士と一級建築施工管理技士の資格を持つ池上剛社長が起ち上げた建設会社(2002年創業)。設計から新築、リフォームや外構工事など、地域顧客の要望に応え幅広く受注している。
本社/熊本県熊本市西区蓮台寺3-8-17
電話/096-325-1667
WEB/http://www.ishiken-kobo.jp
施工例。「なるべくシンプルな建物をめざしている。建築設計はシンプルな方が難しい」と池上社長は語る。
東京で学び地元で独立
ーー会社設立の経緯から伺います。
池上 正直、「独立してこんな建築屋をやるぞ」と意気込んだわけではありません。いろいろな事情が重なって、独立ということになりました。郷里の玉名から熊本の高校に進学し、東京に出て夜間の専門学校に通いながら設計事務所に勤めました。
設計士の世界はいくつかの事務所を経験し、いずれ独立してやっていくと考える人が多いですから、私もそう思っていました。東京で6年半ほど、設計の仕事をしていました。ちょうどバブル経済が破綻して、長い不況に入っていく時期です。建築や不動産の業界は、その影響を最も被った業種ですから、将来、熊本に戻って独立したいと思っての上京でしたので、思いきって帰郷しました。その頃地元の熊本は国体などで景気がよく、知人の紹介もあり、地元の建設会社に入社しました。そちらでは設計の業務ではなく、現場管理の職を6年経験後に退職し、独立しました。
私は設計のほか施工管理の資格がありましたから、最初は「フリーの現場監督」という形で仕事を受けていました。
熊本は、当初は確かに仕事はありましたが、やはり熊本も平成不況に入っていくわけです。そうなってくると、地元での営業実績もまだ少なく、しかも1人でやっているような私ところには、なかなか良い仕事がまわってこなくなります。「手が足りないから手伝ってくれ」と言われて一生懸命仕事をしていたら、まだ建物が仕上がっていないのに元請が倒産してしまった、という“事件”が起きました。施主さんも困っていましたから、それを引き継いで、職人さんたちを再度集め直して完成までこぎつけました。元請するためには会社の看板の方がよいですし、そうするうちに、経費のことなどから会社形式にした方がよいということになり、建築業者として法人化したわけです。今でもそうですが、設計事務所として起ち上げたかったのですが、仕事の多くが現場管理でしたので建築業者としての独立となったわけです。
現場監督は調整役
--熊本の建築業界も相当厳しい時代だったわけですね。
池上 今でも良いというわけではありませんが、私が独立した頃はひどかったですね。建物が建って入金を待っていたら入らない。変だなと元請の事務所に行ったら夜逃げしていた。そんなこともありました。元請の倒産が理由であれば融資は受けられますが、それは借金ですから返さねばなりません。まあ大変な時期が長く続きましたが、なんとかやってこれました。ある程度安定したと思えるようになったのは、ここ数年のことです。
なんとかやってこれたのは、母校のOB会の仲間や先輩がいろいろと気にかけてくれたおかげです。それと、現場管理で付き合いがある職人さんたちが、自分の仕事以外の話が来た時にこちらに回してくれる、ということも大きいですね。左官屋さんが新築の話を聞いたので、ちょっとやってみないかと言ってくれるとか。
--人脈が強みを発揮したということですね。
池上 ただ人脈があるというだけではだめでしょう。思うに、地元での人付き合いも、仕事でもどれだけ信頼を得られるか、それを高めていけるかが大事ですね。信頼があってこその人脈です。お客様からの信頼が大切なのは当然ですが、一緒に仕事をする外注業者さんや職人さんたちからの信頼も大切です。現場がうまくいくことはお客様のためにもなりますし、現場の人間関係が新しい仕事にもつながってきますから。
現場の管理では大工さんとほかの職人さん、あるいはそれぞれの持ち場の職人さん同士がぶつかることも少なくありません。現場監督の仕事とは、その調整役をすること。どう折り合いをつけていくかが大切です。以前、建築現場のコスト削減と合理化効率化を目的に、Web上で工程管理しながら複数の職人が自分の持ち場をこなして建物を建てていくという試みがありました。職人はそれぞれプロだから、元請はWeb上の仮想のものでもいいんじゃないか、というもの。これは面白いと私も関わったのですが、結果的にはうまくいかなかった。現場には職人というプロのほかに、現場監督という調整役のプロも必要なんです。その視点が抜けていたことが、うまくいかなかった理由ではとも考えています。
--洋館家の商品についてはどうお考えですか。
池上 お世話になっている不動産会社さんからのご紹介で会員になりました。当社のような地方の小規模な事業者は、いろいろなところにアンテナを張って情報を得る必要があります。ZEH住宅の件など、洋館家さんのグループに入ることで新しく、そして実践的な情報を得ることができて感謝しています。
当社が受注する新築住宅のお客様には、さまざまな層の方がいらっしゃいます。建物にお金をかけることができる方もいれば、予算はなるべく抑えたいという方も。今後、当社規模の会社が受注を増やすには、どうしても後者の方の要求に応えていかねばなりません。その意味で、低コスト高品質の規格住宅という洋館家さんの商品は、当社にとっては期待の商品だと言えますね。職人の工賃が高騰し、また不足していく中で、住宅建築も新しい形になっていかなければならないでしょう。その一つになってくれればとも思います。
《営業活動OnePoint》同窓会人脈と仕事
--同窓会の人脈に助けられたと伺いました。
池上 はい。とにかく何でも仕事をしていかねばならないと思っていた時、助けてくれたのは地元の同窓の人たちでした。熊本の土地柄は、高校の同窓会のつながりが強い。私の高校は古い学校でしたから地元で活躍するOBも多いわけです。そういう方々がいろいろ声をかけてくれました。中には自治体や超大手企業のそれなりの地位の方もいます。直接受注はできなくても、下請けなどで参加できるルートを紹介してくれました。その中には、現在も当社の主力となっている仕事もあります。高校時代に恩師が「学校のありがたさは、卒業した時にわかる」と言っていましたが、本当にそうだと実感しています。
今もそうですが、当社では特別な営業をするわけではなく、強いて「営業活動」と言えばいろいろな集まり、飲み会などには顔を出すということです。OB会も、学校全体、学科、部活などたくさんありますが、そこでの仕事も厭わずにやるようにしてきました。
「いろいろなところに出て金を使って、いったいいくらの仕事になっているんだ」と言う人もいます。でも、そういう考えでいる人は、人脈で仕事を得るのは難しいのではないでしょうか。仕事はもらえるに越したことはないですが、最初からそれを目的に来る人間はすぐに見抜かれてしまいます。会の運営を手伝ったり、飲み会やゴルフで一緒に遊んでいるうちに、「ところでどんな仕事ができるの?」とか「こんなことできるかい?」という話になって、人や仕事を紹介してもらえる。立派な先輩ほど、付き合いの中で相手の人間を見ているわけですね。
私は卒業した後でも母校のお世話になったと思っていますから、母校と後輩のためにできることをする。それが同窓会活動ですし、「仕事になった」というのは、結果論だと考えなければいけませんね。
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会員メリットを享受したい
ーー熊本の職人不足は、復興需要の影響ですよね。
池上 復興にかかわる工事ラッシュはピークは過ぎていますが、まだ続いています。現状の問題は、復興工事を請けてくれる職人さんが減っているということです。復興はやらない、という職人が出てきているのです。復興ラッシュで工務店など元請を通さず職人さんに直接仕事を依頼するお客様もいましたが、そういう現場で費用などを巡ってトラブルもあったようです。費用が高いとクレームになった、とか。
もともと復旧工事はお客様にとっては予期せぬ出費ですから、そういうことがあっても仕方ありませんが、職人側からすればお客様側である程度の予定と予算を立てたうえで発注してくる新築やリフォームの仕事の方が気持ちが楽ですからね。そのようなこともありますから、地震からの建設面での復旧復興の完了は、まだしばらく時間がかかるかもしれません。
ーー今後の洋館家商品の建築予定は?
池上 情報を集めることと仕入等のネットワークのために、当社ではこれまでも複数のフランチャイズ等に加盟し、現在も続けているものもあります。加盟料を払っているわけですから、それを活用しなければ損ですね。メリットのあるものは継続しています。
洋館家さんがメインとして掲げている戸建賃貸住宅は、まだこれからです。ほかのフランチャイズに比べて高額な会費がかかるわけではないですから、何もしなくてもいいのかもしれません。でも、それではせっかく会員になった意味がありません。リフォームや注文住宅などでも、洋館家さんの情報や資材を活かすなど会員としてのメリットを享受し、本部への貢献ができればと思っています。
▲ 熊本地震の復旧復興象徴である熊本城復元工事