巻頭レポート賃貸住宅の需給ギャップ
空き家は増えているが
戸建は不足している
株式会社 洋館家本店
グループ統括代表 福田 功
40㎡以下の住宅 実は「不要な住宅」
総務省の「住宅・土地統計調査」(2013年)によれば、国内の総住宅数約6,063万戸のうち空き家は820万戸、13.5%の空き家率とされています。この調査は5年に一度ですから、現状は、総住宅数約6,300万戸で約880千戸の空き家、空き家率14%程度と予測されています。これは日本の住宅の7戸に1戸が空き家ということになります。
この統計でいう「住宅」とは、「一戸建の住宅やアパートのように完全に区画された建物の一部で、一つの世帯が独立して家庭生活を営むことができるように建築又は改造されたものをいう」とされています。つまり、アパート・マンションの1室も「1住宅」となるのだということがわかります。
国内で増えている空き家は、限界集落など人口減少で人が住まなくなった空き家と、それよりはるかに多く存在する築30年を超えた古くて狭い住宅です。2011年に閣議決定された「住生活基本計画」では、世帯人数に応じて、豊かな住生活の実現の前提として多様なライフスタイルに対応するために必要と考えられる住宅の面積に関する水準「誘導居住面積水準」を提示しています。それによれば40㎡以下の住宅は「不要な住宅」としています。この不要な住宅が、なんと722万戸も存在しています。
一方で、2人以上の世帯の誘導居住面積水準を満たす広さ、55㎡以上の住宅は約200万戸も不足しているのです。
定住化策は家賃補助だけではない
行政は過疎対策や空き家対策でさまざまな政策を打ち出し始めています。最近は、千葉県佐倉市が空き家戸建を賃貸として貸し出す施策を発表しました。狭い集合の賃貸住宅の時代はもう終わったのだということがわかります。
佐倉市の施策はいまあるものの再活用です。それを否定はしませんが、より品質の良い戸建住宅を民間として供給していくこと、それが私たちのビジネスです。古くなって人が住まなくなった家を貸すのではなく、現在の居住ニーズに応えた高品質で低価格な住宅を提供していくことが、住宅産業を変えていくとも考えています。
行政は定住化策をさまざまに検討しています。この点でも、単に家賃補助を出すだけでなく、賃貸住宅に住み続けたらやがてその住宅が自分のものになる、払い続けた家賃が住宅取得費用に代わるというしくみもあっていいのではと研究しています。状況に応じて行政との連携も必要でしょう。
住宅は決して供給過剰ではありません。200万戸も不足しているマーケットに、積極果敢に踏み込んでいこうではありませんか。
JA長野組合員の賃貸住宅オーナーを対象としたセミナー(写真上・5月19日)、広島の賃貸住宅オーナーや賃貸経営希望者を対象としたセミナー(写真下・4月11日)など、今年も全国各地で戸建賃貸住宅経営の可能性について解説・説明を行っています。戸建賃貸住宅経営への関心は確実に高まっています。
若者・子育て世帯に定住してもらいたい!!
佐 倉 市 戸 建 賃 貸 補 助 制 度
“戸建賃貸の家賃を補助”して生活支援
若者・子育て世帯に定住してもらうことで、街の活性化を図って人口の減少をくいとめたい。こうした狙いで、東京都心から40キロ、電車・高速道で1時間の住宅都市が、戸建賃貸住宅への家賃補助事業をスタートさせて話題になっています。2万円を上限に、月々の家賃の3分の1以内を、2年間にわたって補助する取り組みで、首都圏では初めての試みです。
首都圏近郊の住宅都市、平成29年度から開始
この住宅都市は、千葉県北部に位置する人口17.7万人、世帯数7.6万戸の佐倉市。印旛沼をはじめとした自然豊かな城下町で、東関東自動車道が通り、成田空港にも20分と近いことから、“千葉都民”などのニュータウンとして発展してきました。
しかし、今後はゆるやかに人口が減っていき、20年後には15.2万人になると予測されるうえ、大規模住宅団地ごとに同世代の年代層が流入してきたことで、高齢化が局所的に進んでいく見通しにあります。
佐倉市ではこのため、平成27年10月に「佐倉市人口ビジョン」を策定。人口減少をできるだけ抑えていくため、「20~30代の転入促進・転出抑制」「出生率の好転」「住み続けたいと思える街づくり」を掲げて取り組みを開始しています。目標は2040年に16万人を維持することです。
戸建賃貸に限定したのは、定住してもらうため
佐倉市がそうした施策の一つとして平成29年度から始めたのが、市内で新たに賃貸契約を交わした若者・子育て世帯の家賃を補助する「戸建賃貸住宅家賃補助事業」です。若者世帯の定住化を通じて、人口の維持・増加を図るとともに、健全なコミュニティの維持・発展、空き家の抑制と中古住宅の利用促進を進めていくのが狙いです。
補助対象を戸建賃貸に限定したのは、住み替えによる定住化を大きな目的にしているからです。補助対象者は「新たに戸建住宅を賃貸契約した人」(申請時点で契約から1年以内。契約更新は対象外)であって、「18歳未満の子どもを育てている世帯か、夫婦どちらかが40歳未満の世帯」。補助するのは、毎月の家賃の3分の1以内(上限2万円。共益費、管理費、駐車場使用料等は対象外)で、向こう24カ月(2年間)です。
人口減抑制に向け多様な施策、近居・同居支援も
佐倉市は、人口減の抑制、街の活性化に向け、ほかにもいろんな対策を打ち出しています。空き家バンク登録物件の売買が成立したときの「成約奨励金」、登録物件のリフォームや家財道具を処分したときの「リフォーム補助金」、空き店舗・空き家を生かした事業開始への「出店促進補助金」、さらに親と子が近居・同居する際の住宅取得費用を一部補助する「近居・同居住み替え支援補助金」や、新婚引っ越し費用を補助する「新生活支援補助金」といった助成制度です。
こうした施策が中長期的にどう奏功するか。人口減少が進んでいる近隣都市からも大きな関心が寄せられています。