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 事例研究地域活性化と建築・不動産事業


神山町にて。後列・右から3人目が私(福田)。前列・左が現地の祁答院弘智氏。その右が視察をコーディネートしてくれた篠原隆徳氏。


「建築・不動産事業は街づくり・地域活性化の視点が必要だ」という考え方があります。私もこの考えに賛同します。企業であれば利益を追求するのは当然ですが、地域社会とどのようにかかわるかも大切です。少子高齢化、地方の過疎化などがもたらす問題に対する解決策・改善策を、企業の立場で何ができるかを考える……そのことは、私たちが進める「共存利益の追求」にほかなりません。

建築・不動産事業
街づくり・地域活性化視点必要
異業種提携共存利益追求しよう

株式会社 洋館家本店 グループ統括代表 福田 功


 ネットワークを活用し共存利益を追求する


 私はこれまでも、本誌やYCYブログで何度か「共存利益の追求」を呼び掛けてきました。企業だけが儲かればいいという姿勢では事業の発展はなく、だからといって消費者利益だけを過度に追求すれば産業は疲弊し、結果的に社会の衰退を招きます。このような相反利益を追うのではなく、互いに利益を享受し合う共存利益を追求する社会づくり、そのためのビジネスの形が、成熟社会には必要だと考えるからです。
 洋館家グループのビジネスにおいて、住宅の供給者である私たちとお客様との共存利益は、低価格高品質住宅を多数販売することです。多数販売することで利益を確保し、コストをさらに引き下げ、本部と施工店・販売店の共存利益を達成します。またそれは、私たちとメーカーの共存利益追求でもあります。戸建賃貸住宅の供給では高品質低価格住宅の普及が、施主である建物オーナーと入居者の共存利益を追求することとなります。
 しかし、共存利益の追求は容易ではありません。既成概念を捨てた大胆な発想も必要です。発想を変えるためには異業種の知見、情報が大いに役立ちます。その観点から、私は異業種のさまざまな方々を“外部ブレイン”として、常に情報交換を行っています。

 建築・不動産事業者であることの 自負と責任


 そんな外部ブレインの一人である篠原隆徳氏に勧められ、去る9月5日から2日間、徳島の神山町に視察に行ってきました。
 ソニー生命のトップセールスである篠原氏は建築不動産業界にも精通しており、また「街づくり」についての知見とネットワークを持っている方です。以前から篠原氏は私に、「建築・不動産事業は街づくり・地域活性化の視点が必要だ」ということを熱心に話されていました。そして、その事例の一つとして、徳島県神山町の「神山プロジェクト」についてご紹介を受け、視察の運びとなりました。
 「神山プロジェクト」の詳細は別記の通りですが、地域活性化の取り組みには、やはりその土地の人々の思いが大事なのだと実感しました。同時に、そんな地元の思いを大切にした上での、さまざまな地域のさまざまな人々のネットワークが有機的に結び付けば、共存利益は達成できるのだと思いました。
 私自身、これまでもふるさと鹿沼の活性化のために一市民としてさまざまな取り組みを行ってきましたが、建築・不動産事業者であることが、より地域貢献につながるバックボーンとなることに改めて自信を持つとともに、自負と責任とを感じました。



魅力的な取り組みで
都会から移住者を呼び込む


「神山プロジェクト」とは

 徳島県神山町は徳島市から車で1時間ほどの山間の田舎町。人口5,000人のこの町は、2016年3月に消費者庁が移転に向けた試験業務実施の場所として選ばれ、各種メディアに取り上げられ有名になっています。地方の市町村が深刻な過疎や人口減少に苦しむ中、神山町にはサテライト・オフィス開設などにより移住者が急増、2011年以降はわずかながら社会人口が増加に転じるという「奇跡」が起きています。
 神山に企業や移住者が集まる理由は、徳島市内から近く、ITインフラが整っていること。そして、移住支援や空き家再生などを手掛ける地元NPO法人グリーンバレーがクリエイターや起業家を集め、「新しい働き方」や「クリエイティブな場」といった魅力的な取り組みを展開しているからです。
 私たちにレクチャーをしてくれたのは、神山のまちづくりを担うグリーンバレーの理事で、リレイション社長の祁答院(けどういん)弘智氏。不動産事業の傍ら、10年以上、この取り組み「神山プロジェクト」に関わってきた祁答院氏によれば、「都会の企業や消費者庁がやってきたという『結果』の部分ではなく、そこにいたるまでの『プロセス』の方が重要」だということでした。
 そのプロセスを見ると、神山プロジェクトの原点は、アートを通した国際交流です。1997年に、徳島県が「とくしま国際文化村」を神山町を中心とした地域に作ると発表。それを知った町民が自分たちで「国際文化村委員会」という組織を立ち上げ、作っていきたい文化村の姿を県に提案したのがスタートです。神山町にはすでに、30年以上前から町おこしに取り組む人々が、熱心な活動を行っていたようですが、祁答院氏は「神山の町づくりの特色は、徳島県や神山町の役人ではなく、『やりたい気持ち』を持った住民が主体となっていることだ」としています。
 「国際文化村」をきっかけに1999年には、現在も続く「神山アーティスト・イン・レジデンス」(通称KAIR:国内外のアーティストが、町内に滞在しながら創作活動を行うプログラム)が開始され、2004年にグリーンバレーが設立されます。
 グリーンバレーではクリエイティブな人材が集まる場づくりを地元メンバーが主体的に行います。そしてその取り組みが全国に情報発信され、国内外の注目を集め、そのことがまた新たな人材交流やネットワークづくりにつながっています。
 祁答院氏らはこの取り組みを神山町以外にも移植するとともに、国際的な展開も考えているとのことです。「日本に今も残るありのままの日常・言葉・思い・風景を次世代に受け継ぐために、そこに生きる人から聞いて、記録し、世界へ向けて発信することを、この先10年、20年にわたって続けていきたいと思っています」と語っています。

 古民家を再生したIT企業のオフィス


 ▲ 古民家をリノベーションしたITオフィス(えんがわオフィス)

 「神山プロジェクト」の取り組みにより、町には若いクリエイターや起業家が続々と移住し、サテライト・オフィスなどの企業進出が相次いでいます。東京・渋谷など都会に本社をおくIT企業10数社がサテライトを開設する理由としては、神山町は徳島市内から近く、ITインフラが整っていることが挙げられます。さらに、グリーンバレーや祁答院氏のリレイション社などの活動により移住支援や空き家再生のしくみがしっかりしていることも大きな理由です。
 町内にサテライト・オフィス第一号が誕生したのは2010年のこと。名刺管理のクラウドサービスを展開する株式会社Sansanの社長が、神山で古民家改修に携わっていた建築家の友人から「神山は自然が豊かで人も面白いし、インターネットも速くて仕事をするにも良い場所だ」という話を聞いたことが発端です。
 祁答院氏は「Sansanが神山にやってきたのは、神山がサテライト・オフィスを出す企業を熱心に募集したり、補助金を出したりしていたからではありません。ヒトがヒトを呼ぶ『ヒトノミクス』が起こったのです。それも神山が歩んできたプロセスの特徴の1つ」と語っています。
 Sansanの神山ラボには、築70年の古民家を再利用することになり、これは建築業界ばかりでなくマスコミにも広く取り上げられ、話題となりました。その後も、株式会社プラットイーズ(株式会社えんがわ)のサテライト・オフィスや元大手IT企業の社員の女性がオープンしたフレンチ・ビストロ「カフェ・オニヴァ」など、古民家を購入・改修して再利用するケースが、地域活性化の事例として各メディアで取り上げられています。
 これらのプロジェクトには祁答院氏らのような不動産関係に精通した人だけでなく、さまざまな専門家が関わっています。例えば、古民家を改築するなら建築家、地域の特産物を使った料理を作るなら料理人や飲食店経営のノウハウを持つ人、移住者たちが自分たちの仕事を作るために起業するときには、税務や法務の専門家など。「ヒトがヒトを呼ぶ」ことで、これらの専門家集団が出来上がっているわけです。

 ▲ 古民家をリノベーションしたビストロ  「Café on y va (カフェ オニヴァ)」。

 地域滞在型の人材育成プログラムを実施

 祁答院氏らは「地域を活性化させるのに欠かせない要素は『人』」と言います。リレイション社が実施する「神山塾」はその考え方に立った地域滞在型の人材育成プログラムです。神山に滞在し、地域の活動に参加しながら、自分のこれからの暮らし方や働き方を考える時間を持つという主旨のプログラム。2010年に厚生労働省の基金訓練という制度を利用して始めたもので、これまでの参加者の延べ人数は100名を超えているそうです。
 参加者は、主に大阪・名古屋・東京やその近郊など、関西・関東の都市部の20~30代の男女で、神山町に民泊して訓練を受けますが、その内容は「黙って本人が立ち上がって動き出す瞬間を待つ」というもの。そして自分自身の歩む道を定め、半数近くは神山町で仕事に就いているということです。

▲ 学びと訓練の場があり、新しい仕事も生まれる

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 街づくりの木を全国に植えていきたい

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